地下駐車場はなぜ浸水するのか
地下駐車場の入口は、道路から地下へ向かって下る幅の広いスロープです。道路が冠水すると、水は低いほうへ流れ込み、地下全体が「受け皿」になります。地下には電気室、ポンプ室、エレベーターのピットが集まっていることが多く、駐車場の浸水はそのまま建物機能の停止につながります。
浸水の経路は大きく3つあります。
- 地表から:車路・スロープ、階段、通用口、換気口、からぼり
- 排水管から:下水道の水位上昇による逆流
- 建物内の貯留槽から:雨水貯留槽や汚水槽が満水になって溢れる
都市部で増えている内水氾濫(下水道の排水能力を超える豪雨で起きる浸水)では、川から離れた建物でも2つめ・3つめの経路で地下が浸水します。洪水ハザードマップだけでなく、内水ハザードマップと過去の浸水実績の確認が欠かせません。
車路・スロープの止水
国土交通省・経済産業省の「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」は、建物を囲む水防ラインを設定し、ライン上のすべての浸水経路を切れ目なく塞ぐことを求めています。車路はその中で最も間口が大きい箇所です。
| 方式 | しくみ | 向く建物 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 脱着式(連続パネル) | 中柱を立て、パネルを並べて固定 | 管理員・住民が設置できる建物。既存建物への後付け | 保管場所と設置訓練が必要 |
| 起伏式 | 床に収納した板を手動・電動で立ち上げる | 設置時間を短くしたい建物 | 床の掘り込み工事が必要。電動は停電時の操作を確認 |
| 浮力式 | 水位の上昇で自動的に立ち上がる | 夜間・休日に無人になる建物 | 収納部の清掃・点検が必要 |
| 防水シャッター | シャッターを閉めて圧着する | 間口全体を塞ぎたい建物 | 閉鎖中は車両の出入り不可。電源の確保 |
既存建物では、大きな工事を伴わない脱着式が第一候補になります。スロープは勾配があるため、止水板を立てる位置(入口の平坦部か、スロープ途中か)と、床の排水溝をどう処理するかを現地で確認します。


機械式駐車場のピット
機械式駐車場のピットは地盤面より低く、短時間で水がたまります。ピットの排水ポンプの能力と非常時の電源を確認し、豪雨の予報段階で車両を地上や高い場所へ移すルールを決めておくことが、被害を最も確実に減らす方法です。
エレベーターを守る
エレベーターは、乗場の扉の隙間や昇降路の最下部から水が入ると、かごや制御機器が被害を受け、復旧まで使えなくなります。高層階の住民や患者にとっては、停電と並ぶ深刻な影響です。
- 乗場前の簡易防水板:1階と地下階の乗場に、脱着式の防水板を設置する。通常時は通行の妨げにならない
- かごの退避:浸水のおそれがあるときは、かごを浸水しない中間階以上へ移動して運転を休止する。操作の権限と手順を管理会社・保守会社と決めておく
- 機械室・制御盤:扉を防水扉にする、盤を嵩上げする

見落としやすい経路:排水管からの逆流と貯留槽の溢水
2019年の台風19号では、武蔵小杉のタワーマンションで、敷地の浸水は30cm程度で出入口は土のうで守れたにもかかわらず、雨水ますから地下の雨水貯留槽に流れ込んだ水があふれ、地下3階の電気室が水没しました。出入口を塞ぐだけでは守れない、という教訓です。
ガイドラインが示す対策は次のとおりです。
排水設備を通じた下水道からの逆流防止
- 貯留槽にためた雨水・汚水・雑排水をポンプアップして排水する構造にする
- 排水設備に立上り部を設ける、または流入を防止するバルブを設ける
建物内の貯留槽からの浸水防止
- 下水道へ排水できなくなると貯留槽が満水になり溢れるため、貯留槽に溢水防止措置を講じる
- 貯留槽への流入経路にバルブを設け、逆流と流入を止められるようにする
排水の系統は建物ごとに異なります。給排水設備の竣工図を確認し、「どの管がどこにつながり、どこから水が上がりうるか」を設備業者と一緒にたどる作業が出発点になります。
豪雨の前に:タイムラインを決めておく
止水板も、かごの退避も、車両の移動も、人が動かなければ実行されません。ガイドラインは、対応を時系列で整理したタイムラインを関係者で共有することを求めています。
| タイミング | 行動の例 |
|---|---|
| 大雨・台風の予報(前日〜) | 管理会社・理事長・防災担当の連絡体制を確認。止水板の保管場所と鍵を確認 |
| 大雨警報・洪水警報 | 機械式駐車場の車両を移動。車路・階段・乗場の止水板を設置。排水ポンプの動作確認 |
| 道路冠水のおそれ | エレベーターのかごを中間階以上へ退避。逆流防止バルブを閉める。地下への立ち入りを制限 |
| 浸水後 | 電気主任技術者へ連絡。安全確認の後に排水・点検 |
- 出典:国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(令和2年6月) PDF
- 出典:国土交通省水管理・国土保全局「地下街等における浸水防止用設備整備のガイドライン」(2016年)
- 参考:日経クロステック「武蔵小杉タワマンを停電に追い込んだ9000トンの水、意外な浸入経路を解明」ほか報道各社
- エレベーター・機械式駐車場の操作は、必ず保守会社の指示と取扱説明に従ってください。